(2018年発売 / 販売:デッドオーシャンズ )
音楽活動を生業とするアーティストには、主に3つの収入源がある。
ひとつめは録音作品の売り上げ。ふたつめはコンサートのチケット代。そして3つ目はマーチャンダイズ、通称マーチの販売だ。
特にパンデミックの影響でコンサートの開催が難しくなり、ストリーミング・サーヴィスの普及に伴ってCDを手に取る機会も少なくなった昨今、アーティストの活動資金としてマーチの重要性はますます高まっている。
そうした流れもあってか、最近はアーティストが展開する商品も随分と多様化した。
そこでひとつ思い当たるのが、ミツキが2018年に販売していたマーチだ。
アルバム『ビー・ザ・カウボーイ』のリリースにあてて、ミツキは当時いくつかの新作マーチを発表。
その時に彼女がTシャツやトートバックなどの定番と共に販売したのが、ラーメン・スプーンだった。
そう、レンゲである。
このレンゲの販売開始に寄せて、ミツキはツイッターでこんなコメントも残している。
「是非、日本の箸と組み合わせてください」
父の仕事の関係で、コンゴ、マレーシア、中国、トルコ等さまざまな国を点々としながら育ったというミツキ。
アメリカ人でありながら、彼女はその容姿から周囲にアジア系のステレオタイプを当てはめられ、時にはそれを受け入れざるをえなかったという。
レンゲには、そんな日系アメリカ人としてのイメージを象徴する意味合いもあるのだろう。
そして、この赤いレンゲには、アルバム・タイトルにちなんで 'Feed the Cowboy' という文字が刻印されている。
ミツキがこれまでに経験してきた葛藤と悲しみ、そして故郷アメリカへの愛憎が込められたアルバム『ビー・ザ・カウボーイ』。
カウボーイとは、主にアメリカ西部における勇敢な男性の象徴であり、同時に父性主義の典型とも言われる存在だ。
『ビー・ザ・カウボーイ』にはそんな“アメリカらしさ”への憧憬も感じ取れるが、一方でレンゲにプリントされた 'Feed the Cowboy' という文字には、そんな典型的なアメリカへの皮肉めいたユーモアも読み取れる。
長らく低迷が叫ばれていたアメリカのインディ・シーンに登場し、その救世主とも称されたミツキ。
あくまでも副次的なものとはいえ、このレンゲもまた、ミツキという音楽家のメッセージが込められた作品と言ってもいいだろう。
ちなみにこのレンゲの価格は10ドル。販売開始するや否や、瞬時にソールドアウトしている。
(文・渡辺裕也)
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