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最終回:Season.2【旅と世界とスープ】北京の旅”香味麹の水餃子”

細川亜衣さんによる【旅と世界とスープ】の第5回目。最終回となりました。

北京の旅の思い出とそれにまつわる料理について、綴っていただきます。


trip.5


★旅の記憶

はじめて訪れた中国の街が北京でした。

いまから20年以上も前のことなので、もう街はすっかり様変わりしていると思います。季節は晩秋。中国の古玩(骨董)に惹かれて旅をしました。いまはどうかわかりませんが、当時はいい古いうつわがまだたくさん見つかりました。中国語は話せませんが、身振り手振りで値段交渉をするのは楽しい時間となりました。

骨董市や骨董商を渡り歩くのはとてもエキサイティングな一方で、意外と体力を使います。買いつけの合間に、ふらりと入った食堂で出会った料理に、何度癒されたことでしょう。



北京では水餃子、炸醤麺、包子など日本でもよく知られている料理をはじめとして、さまざまな粉ものを食べる機会に恵まれました。いずれも日本で食べ慣れていたものとは全く違い、生地の食感やその他の素材との組み合わせなど驚きの連続でした。

北京で小麦粉料理に魅せられた私は、その後も興味深い小麦粉料理の宝庫である陝西省や、麺のふるさとと呼ばれる山西省(さんせいしょう)などたくさんの土地を旅し、中国の小麦粉文化の魅力に取り憑かれてゆきました。

そして、各地を旅してゆく中で、多くの小麦粉料理がイタリア料理につながっているということに気がつきました。名前や食べ方は違えど、作り方はほとんど中国と同じような生の麺、つまり生パスタがイタリアには数多く存在しています。

昔々、シルクロードを経て中国の麺がイタリアを含む様々な国に伝わっていった歴史が、

その出発点を見て理解することができるようになりました。私は一番はじめに料理を学んだのがイタリアでしたので、中国の旅はイタリアで出会った数々の手打ちパスタの原点を辿ってゆく経験となったのです。


イタリアでは、”ラヴィオリ”や”トルテッリーニ”と呼ばれる手打ちの生地で、肉だねを包んだ料理をよく食べます。中の具材や包み方は地方により少しずつ変わりますが、基本的には中国の水餃子を彷彿とさせるものです。日本では、私が幼い頃は、餃子といえば焼き餃子一辺倒だった気がします。ただ、ある時期から少しずつ水餃子を出すお店が増え、家庭でも気軽に皮から手作りする水餃子をこしらえることが珍しいことではなくなりました。

とはいえ、中国の人と違って私たち日本人にとって水餃子を一から作るのは骨の折れる作業です。小麦粉と水をこね、丸くのばし、あんを入れてとじ、ゆでる。これら一連の作業を中国の街の食堂や市場の厨房などでは、毎日早朝からいとも簡単そうに、そして驚くような手早さで行っているのです。その光景を目にするたび、そして、作られた水餃子を食べるたびに、中国の人々に尊敬の念を抱いてしまいます。それと同時に、彼らの食べることへの情熱と器用さには本当に驚かされます。


毎日水餃子を作るわけではない私たちにとっては、慣れないたくさん作業があるので、水餃子はひとりで作るよりも家族みなで、あるいはお友だちと集まって作る方が気楽でいいな、と思います。誰かが具を作り、誰かが生地をのばし、誰かが包む。流れ作業で作る水餃子はひとりで黙々と作ったものよりも、食べる時もうれしいものですよね。ただ、慣れないうちはせっかく一生懸命作った生地が、具の中に入れた野菜の水分で破れてしまうことも少なくありません。ついつい欲張って具をたくさん入れてしまったり、野菜の絞り方が十分でなかったりと理由はさまざまだと思います。


そこで、ある日ふと思い立ち、いつも手作りしている塩麹にねぎや玉ねぎ、しょうがなどの香味野菜を混ぜて醗酵させたものを水餃子の野菜がわりにしてみたらどうだろう?と考えました。具はひき肉に香味塩麹とごま油を加えて混ぜるだけ。手作りの皮で包んでゆでてみたところ、これが大成功でした。たくさんの野菜を入れなくとも、塩麹の旨みでほんの少しの香味野菜の香りがしっかりと引き出されるのです。

香味塩麹に入れる香味野菜は私は一種類で作ることがほとんどです。それは、香味野菜それぞれの香りを大切にしたいから。ほかにも、たとえば香菜やフェンネル、春菊あるいはセロリなどの青い香りの野菜やハーブを刻んで作ったりと、どんどんと発想は広がってゆきます。

皮を手作りするのが大変でしたら市販品を使っても、ほかにもわんたんの皮で包んでもとてもおいしくできますよ。水餃子はゆでるだけでもいいですが、今回は昆布といりこのだしとゆず塩を使った熱々のスープに浮かべて食べるレシピをご紹介します。ねぎやしょうが、そしてゆずがおいしい季節がやってきますね。まずは香味塩麹を作るところから始め、次に水餃子をぜひ作ってみてください。ちなみに香味塩麹は炒め物、肉だね、煮込み、鍋物、焼き物、汁物など、日々の料理にお役立てくださいね。

発酵食品の威力は本当に素晴らしい。日本や中国をはじめ、アジアの国々には数えきれないほどの発酵調味料や、漬物など発酵食品があります。それぞれの土地にそれぞれの発酵食品があり、使い方も各国それぞれですが、たとえば塩麹のような日本らしい調味料を中国の料理に活かしてみる。そんな自由な発想で料理をしてみると、日々の料理がどんどん楽しくなってゆくと思います。

細川さんのおうちのゆずの木

★記憶のレシピ

「水餃子」


〈材料〉※約4人分

皮)

・中力粉 150g

・水 75g

・塩 5g

・片栗粉(打ち粉)適量

(具)

・豚ひき肉 200g

・好みの香味塩麹 20g

・ごま油 10g

(スープ)

・昆布といりこの水だし 400g

・酒 10g

・ゆず塩 10g

・塩 適量


(たれ)

・ねぎ油 適量        

・塩麹 適量                  

・ゆず塩 適量




「塩麹」


・米麹 200g

・水 300g

・塩 60g

すべての材料を煮沸消毒した瓶に入れ、よく混ぜてふたをする。

ヨーグルトメーカー55℃で12時間加温し、粗熱が取れたら冷蔵保存する。

※ヨーグルトメーカーがない場合は、発酵するまで室温で時折混ぜる。






「香味塩麹」 


ねぎ、しょうが、玉ねぎのいずれかお好みの香味野菜を刻み、塩麹と混ぜて瓶に入れ、冷蔵保存する。

*にんにくの場合は、香りがきついので少量にとどめる。







「ゆず塩」


ゆずを半割りにし、種をのぞいて20%の塩と重ねて清潔な瓶、あるいは密閉袋に詰める。

常温で水分が上がるまでおいた後、冷蔵保存。

水分が上がれば食べられる。はじめはさわやかな香りだが、

だんだんと熟成して濃厚な香りになり、飴色に変化してゆく。




〈作り方〉

①豚ひき肉にお好みの香味塩麹を加えて、糸がひくまでしっかり混ぜる。

②皮の粉と塩をボウルに入れ、水を少しずつ注ぎながら混ぜる。

③台の上でよくこねて寝かせる。

④生地と具を20個分に等分し、(生地を10g、具を10g)片栗粉をまぶして手で丸く伸ばし、具を等分して好みの形に包む。

⑤スープを作る。鍋に昆布といりこの水だし、酒、ゆず塩を入れて中火で煮る。

味がなじんだら塩味をととのえる。

⑥湯を強火で沸かしたところに水餃子を入れ、浮いてきたら中火で2分ゆでる。

⑦うつわに水餃子を盛り、スープをかける。

ねぎ油、塩麹、柚子塩を混ぜたたれを好みでかける。          

(文とレシピ・細川亜衣)






最終回に寄せて

1年3ヶ月にわたってお送りしてきた細川亜衣さんによる「旅と世界とスープ」。

いかがだったでしょうか。旅の紀行文は世にあふれていますが、旅の記憶を辿ったレシピの紹介はあまりないかもしれません。

連載を通して思うことは「やはり、世界は広い。知るっておもしろい」。

料理家さんからたくさんの知識を得て作る料理は、またあたらしい扉を開いた気持ちにもなります。


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