夏は食欲がつい鈍りがち。
スープも冷たいものを求めたくなる。
となると、思い当たるのがスペイン/ポルトガル料理のガスパチョ。
トマトをはじめとした夏野菜がふんだんに使われた
冷製スープは、この暑い時期にうってつけだ。
ポルトガルとガスパチョといえば、こんな曲があった。
サン・キル・ムーン「アイ・ラヴ・ポルトガル」。
2017年リリースのアルバム『Common as Light and Love Are Red Valleys of Blood』に収録されている同曲は、
サン・キル・ムーンことマーク・コズレックがポルトガルという国への想いを蕩蕩と歌った、
牧歌的なアコースティック・ソングだ。
ツアー先のポルトガルを訪れたコズレックは、その地域の風土や住民の人柄に感動。
ポルトガルにいるだけで自分の心が安らぐことに気づいた彼は、いっそポルトガルに住みたいとまで思い始める。
そんなコズレックはどうやらポルトガルの食文化にも
いたく感銘を受けたようで、
彼はこの曲でポルトガルの素晴らしい郷土料理をいくつも紹介している。
代表的なポルトガル料理とされる塩鱈の干物、バカラオ。
同じく名物料理として知られる、鰯のグリル。
北ポルトガルを代表するジャガイモのスープ、
カルド・ヴェルデ。
そしてもちろんガスパチョ。
いつかまた戻ってきて、ボウルいっぱいの
ガスパチョを食べたい。
コズレックはそう歌っている。
気難しい性格とも言われるコズレックにしては、いつになく陽気な曲調の「アイ・ラヴ・ポルトガル」。
ところが、この曲には大好きなポルトガルとの対比として、故郷への複雑な思いも綴られている。
なかでも象徴的なのが
「大馬鹿野郎の大統領と暮らすくらいなら/ポルトガルに家を買っちゃおうかな」という一節だ。
アメリカの前大統領が正式に就任したのは、ちょうどこの曲がリリースされた頃。
つまり、「アイ・ラヴ・ポルトガル」の背景には
故郷アメリカに対する失望があったのだ。
あれから4年。
コズレックはポルトガルにまだ家を買ってはいない。
(恐らく彼は今、深刻な訴訟問題でそれどころではないはず)
ただ、イベリア半島に住みたいという
コズレックの想いはどうやら今も続いているようだ。
サン・キル・ムーンの最新作
『Lunch in the Park』の収録曲「スペイン」。
彼の地に想いを馳せたこの曲で、彼はこんなことを歌っている。
「今朝、スペインの夢を見た/目が覚めて携帯電話を見ると/友達からメールが来ていた/バイデンが勝った」
(文・渡辺裕也)
※今回、本コラム執筆中にマーク・コズレックの訴訟問題が発覚いたしました。ただ、音楽そのものに罪はないと判断し掲載いたします。